2011年11月20日日曜日

看護師のススメ 第47話 「苦悩と使命」

いつものように穏やかな一日だったはずです。


当たり前のように台所にはお母さんがいて


当たり前のように仕事に向かうお父さんがいて


当たり前のような一日になるはずだったはずです。



44歳 男性 病名:脳幹梗塞



脳幹とは脳の中でも生命維持に重要な部分であり
当院の脳外科の先生は「生命の根源」と言います。

この場所に大きな出血が起こると呼吸が停止し
やがて心臓も停止します。

また他の脳の部位と違い
生命維持に重要な部分が集約された場所であるため手術ができません。

血圧をコントロールし出血を最小限にし
止血剤を使用し、呼吸が止まれば人工呼吸器を装着し

しかしそれは根本的な病気の解決にはならず
対症的な治療でしかありません。



その患者様には中学生の娘さんがいました。

娘さんは病室の端で大きな声で泣いていました。

「お父さんは何にも悪いことしてないのに!!」

「なんでお父さんなの?!」

奥さんは患者様の顔に、自分の顔を近づけ泣きながら

「ねぇ!起きて。約束守ってよ!お正月の買い物行くんでしょ?!」

「まだやらなきゃいけないことがあるんでしょ!!」

と何度も何度も繰り返すように言っていました。



心臓が停止し、蘇生処置を繰り返します。

心臓マッサージをする小生の背中に家族の悲痛な叫び、泣く声が突き刺さります。

「動かないと帰っても意味がないじゃない!!」

奥さんの言葉に、思考が停止ます。

こんなにも自分は無力・非力。



その後、家族の見守る中、死亡確認となりました。

患者様の死に直面するたび、死に慣れてしまう自分に

看護師としての無力さに苦悩します。

もし小生にできることがあるとすれば

看護師として、人間として
苦しむ家族に寄り添い、悲しみを共有し乗り越える援助ができるように
強くなることだと思います。

患者様の最後の意思をくみ取ることができるように。

それが使命です。

患者様、そして家族の

当たり前の一日を取り戻すために。

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